エネルギー物理工学分野 課題集約演習2014

教授:渡辺 幸信、助教:金 政浩、TA:B4 中野、西谷、M1:河野、中村
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~ 概要 ~

 今回の課題集約演習では、低価格なCMOSイメージセンサを用いたカメラを改造し、 放射線検出器を自作します。
 また、自然界に存在する放射線に関する知識を深めるため、 NaI(Tl)シンチレータでできた検出器による、筑紫キャンパス付近の空間線量計測を行います。
 さらに、弱い放射線源を用いた計測を通して、自作した検出器とNaI(Tl)シンチレータ検出器の 結果を比較し、較正を行う事で、「自作の空間線量測定器」を開発することも目的とします。  この開発にはC言語系のオブジェクト指向言語を用いたプログラミング(全くの初心者でも中級者でもOK!)も含まれています。

 ものづくり放射線応用技術自作センサプログラミングなどに興味がある方、トライしてみませんか!?

 右図の赤丸で示した様な、私たちが普段使っているPCや携帯電話には、今日ほとんどの場合「カメラ」が 付属しています。多くの場合、このカメラには「CMOSイメージセンサ」が用いられています。 CCDイメージセンサで作られた製品も時々見かけますが、動作原理はほぼ同じだと思って下さい。(※正確に言うと電気信号の 「読み出し方」が異なります)
 これらのセンサでは「光」を検出するためにフォトダイオード (参考資料: 浜松ホトニクス 技術資料「Siフォトダイオード」)という素子が用いられています。 この素子の働きは「光」電気信号」に変換することです。 半導体に光が入射した際に起こる「内部光電効果」を利用しています。(※物質に光を入射した際に電子が飛び出す「外部光電効果」 を利用した光検出器の一種「光電子増倍管」も当研究室で見学できます)
 以下に内部光電効果の模式図を示します。


 上図の様な単純なPN接合の半導体を考えて下さい。受光面側がP型、基板側がN型となります。 上図左側に示している様に、フォトダイオードには様々な波長の光が入射します。 短波長の物はP層や空乏層付近までしか到達しませんが、長波長の物はN層まで深く到達します。 これらの光のエネルギーが半導体に吸収され、与えるエネルギーがバンドギャップ(価電子帯と伝導帯の幅…シリコンでは1eV強)を超えた場合、 電子-正孔対が半導体内部に生成されます。
 上図中央に示す様に、P層に生成した電子-正孔対のうち、正孔はP層内を拡散して広がっていきます。そのうち、空乏層に達した物は、 N層に加速されて到達します。N層の場合は、電子について逆の反応が起こります。また、空乏層内では、電子および正孔が、各々 P層、N層に向かって加速され、移動します。
 最終的に上図右側に示す様に、各々の層が帯電し起電力を生じる事になります。 イメージセンサではこの起電力は光の強弱の信号として利用する事になります。 (※なお、「光を照射して起電力を得る」というポイントから、「太陽電池」を想像したかもしれません。 ビンゴです!太陽電池はフォトダイオードを多数並べた構造をしており、原理は全く同じです)

 さて、このフォトダイオードに放射線が入射したらどのような反応がおこるでしょう。 放射線と物質(原子)の相互作用には、主に軌道電子の「電離」「励起」のふたつがあります。 他にも原子核との相互作用がありますが、自然に存在する放射線のほとんどは、(電離や励起と比べると) 原子核反応を起こす確率が極めて低いため、今回は考えなくても構いません(※渡辺研では粒子線加速器を用いた核反応の研究も行っていますので、 ぜひホームページ研究紹介の項にも目を通して下さい)。
 放射線がフォトダイオードに入射した場合の模式図は、実は上図の「光」の部分を「放射線」と読みかえた物と同じになります。 放射線のエネルギーの一部、または全部が「励起」という形でフォトダイオードの素子に含まれる電子に与えられ、 その値がバンドギャップを超えた場合に電子-正孔対が生成するのです。

 このとき、フォトダイオードは最終的に光が入射したときと同じように帯電し、起電力が生じます。 すると、イメージセンサは「光を感じた」と誤解します。 ということは、カメラを用いた映像上に「光」の様に出力され、観察できると言うことが理解できるでしょう。 下図に実際にイメージセンサにベータ線を入射した際に見える「光」を示します。


 たくさんの「輝点」が見えているのがわかるでしょうか。この撮影をする際は、カメラに暗幕をかけています。 つまり、本来なら真っ暗な画像だけが見えるはずです。しかし、ベータ線を入射することによって、 イメージセンサが「光だと誤解して映像として出力」しているのです。

 
 なお、単純にカメラに放射線をあてるだけでは、なかなか上図の様なイベントを観測することができません。 今回の課題集約演習では、市販のWebカメラを分解して、放射線に感じやすいセンサに改造し、「自作センサ」とします。 左図はこれまでに課題集約演習で作成した「自作センサ」の写真です。 このような自作センサをつかって、自然に存在する放射線や、人工放射線源からの放射線を計測します。

 自分たちで何を計測したいか、いろいろとアイデアを出し合って、主体的に研究を進めていきましょう。
 一例として、2013年度に私たちの研究室で実施し、見事優秀ポスター賞に選出された成果を以下に示します。


 この図は、右にしめすような金属製のボールチェーン(図は有限会社ライズの商品ページより引用)を消しゴムの中に埋め込んで隠し、 それをベータ線源で照射し、自作センサで撮影することで得られた透過画像です。
 人の目からは見えませんが、放射線はものを透過する力があります(レントゲン写真を思い出してください)。 今回は、消しゴムとボールチェーンの部分ではベータ線の透過量が異なるため、このような図を得ることが できたわけです。
 このように、計測したいもののアイデアはいくらでも自分たちで出すことができます。

 さて、ところでどんなものを計測したら有用でしょうか。近年、科学研究のキーワードとしては欠かせない、 「環境」についての計測を2014年度は目標にしてみようかと思っています。 もちろん他のアイデアも大歓迎ですが、ぜひ「環境」をベースに考えていきましょう。

 ところで「環境」「放射線計測」の接点はどこにあるでしょうか。 放射線は地球上…いや宇宙空間のあらゆる環境に存在します。
 例えば国際宇宙ステーションからの動画を見たことがあるでしょうか。映像にノイズのような、流星のような、さまざまな 「輝点」が時々見えます。例えばNHKオンデマンドの NHKスペシャル宇宙の渚第2集 天空の女神オーロラの「お試し(無料)」を見て下さい。 19秒以降の古川宇宙飛行士がコメントしている部分の背景の動画に「輝点」がチラチラッと見えるのがわかりますか? UFOだと騒いでいる人たちがいますが、はたしてそうでしょうか?それともただのノイズでしょうか。フトコロに余裕があれば、購入して視聴してみれば、 画面を大きく横切る様な「輝点」…むしろ「輝線」などもよく観察できることでしょう。 実は、これはほとんどの場合、宇宙を飛び交う高エネルギーの放射線(宇宙線)がカメラのイメージセンサと反応した結果なのです。 このように宇宙線が半導体に入射した場合、電荷が付与されてしまうことがあります。 もし、メモリを構築する半導体に入射した場合、時々書き込まれているメモリ情報が反転することがあります。 このような現象を「ソフトエラー」と言って、宇宙環境で機器を動かす際には必ず考慮に入れねばならない現象です。 渡辺研では、この「ソフトエラー」に関する研究も行っています。


国際宇宙ステーションから見た地球(NASA-HDEV実験)
参考情報
2014年4月30日から開始された国際宇宙ステーションからの生中継 (ISS HD Earth Viewing Experiment)を要チェックです。 このNASAの実験は、4台の市販カメラの宇宙空間での耐放射線性をチェックすることも目的のひとつです。 運が良ければ、自作センサで得られる放射線の画像(先述)と同じように見えます。
特に国際宇宙ステーションが「夜」の部分を通過している時がチャンスです。 真っ暗な画面に時々チラチラと輝点が見えます。2014年7月15日の午前中の映像では特によく見えていました。 宇宙空間の放射線の強度も日変動がありますので、たまたま放射線の強いときだったのかもしれません。 大きめのディスプレイを用いて、フルスクリーンモードで見ると見やすいです。1コマだけしか光らないので、結構運に左右されます。

 地表でも環境中には、これらの宇宙からやってくる放射線由来の二次宇宙線の他にも、様々な 自然放射性物質からの放射線が存在します。 例えば、私たちの体内にある「カリウム」のうち、0.0117パーセントは「放射性カリウム」です。体重60kgの人なら、おおよそ4,000ベクレルの放射性カリウムが 体内に存在することになります。なお、2014年現在、食品の放射能濃度は法律で1kgあたり100ベクレル以下の物しか流通させてはならない事になっています。 ところが人体は、放射性カリウムだけで1kgあたり66ベクレルある事になります。放射性の炭素やルビジウムなども人体には含まれており、若干100ベクレルを上回っています。
 環境中の放射線計測は今までになく重要性を増しています。ご存じの通り、東日本大震災に付随して起きた福島第一原子力発電所の事故を受け、 環境中に放射性物質が飛散しました。一種の環境汚染です。 これを計測するためには、放射線センサーが必要です。当研究室では、食品の放射能濃度を調べる検出器の開発三菱電機と共同で行っていますので、 参考までにプレス発表に目を通してください。

 さて、宇宙飛行士ではない私たちも、日ごろからこれらの自然放射線にさらされており、年間数ミリシーベルトの被ばくをしています。 また、その他にも医療由来の被ばく線量もあります。 東日本大震災の際、福島第一原子力発電所の近くに住んでいた方々や、そこで作業している方々は 事故由来の被ばくもあることでしょう。安心して健康に過ごすためには、環境中にどれだけの放射線が飛び交っているかを調べなければなりません
 環境から単位時間あたりに受ける放射線の強さの事を「空間線量率」と呼び、 「ナノシーベルト毎時(nSv/h)」という単位などで表します。 1時間そこにいたら、何ナノシーベルトの被ばくをうけるかを示した値です。 環境放射線の計測といえば、第一歩としてこの空間線量率を測定することから始まります。

右の図を見て下さい。地図上に色のついた点がプロットされているのがわかるでしょうか。 よく見えない場合は図をクリックして拡大して下さい。 これは2014年7月に当研究室が測定した「自然放射線による空間線量」をGoogleマップ上にプロットした物です。 高宮付近が少し線量が高いでしょうか?しかし、おおむね70ナノシーベルト毎時以下の値であることがわかります。 この結果より、私たちは科学的な根拠に基づいて「この地域には安心して住める」と判断できるわけです。 福島ではどうでしょうか?最近は空間線量率を公開している地方自治体や個人も多いです。色々調べてみましょう。

10.00■ 16.00■ 22.00■ 28.00■ 34.00■ 40.00■
46.00■ 52.00■ 58.00■ 64.00■ 70.00 ≤ ■
(nSv/h)
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 今回の課題集約演習で、みなさんは自作のセンサを用いて放射線を測定します。 そして、「環境」をテーマに空間線量率を測定することを目的としたいと思います。
 ただし、自作センサは放射線の感度があまり高くなく、環境放射線を測定するのには 不向きかもしれません。しかし、これは逆に考えれば、「それほど線量が高くない」という 指標になるかもしれません。ここを正しく判断するためにはどうすればよいでしょうか。 上記の空間線量率のマッピングに用いた、市販の検出器(NaI(Tl)シンチレーション検出器)との結果と比較を行い、 自作センサの較正をしてみましょう。 その結果、自作センサがどの程度の空間線量率から計測が可能か推測できます。 そして、計測可能な空間線量率がわかれば、その応用先も見えてきます。

  • 原子炉内部ほど高い空間線量率のところでなければ使えないでしょうか?
  • 放射性医薬品を製造している、病院内の加速器室でも使えるでしょうか。
  • 福島の比較的汚染の軽度ですんだ土地でも使用可能でしょうか。
  • 色々と検討し、現実的な答えを導いていきましょう。

     また、自作センサはもともと「光」「映像」としてとらえるイメージセンサです。 放射線を測定するということは、得られた「光由来ではない輝点」を数えたり、 その強度を調べたりするということに他なりません。 ということは、「映像」を「解析」するソフトを作る必要があります。
     普段からプログラミングには慣れ親しんでいるでしょうか。 講義でしか触れたことのない人もいるかもしれません。しかし、今後社会で活躍する皆さんには、 必ず必要となってくる技能です。特に、近年は「オブジェクト指向型」と呼ばれるタイプの言語が よく使われます。
     これらの言語を使いこなし、ゼロから解析ソフトを作るのは簡単なことではありませんが、 ひな形はこれまでの課題集約演習で開発してきましたので、心配はいりません。 新しい機能を、ひとつでも…ふたつでも付け加えましょう。

    皆さんが興味を持ってエネルギー物理工学分野を選択してくれることを 期待しています!


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